雪消の候

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司は小学、中学共に受験はせず公立校に通っている。それは基本的に自分の住まう地域によって決められるものであるため、小学校と中学校で顔ぶれが大きく変わることはなかった。付き合おうと思えば、九年間に渡って関係を続けられる相手がそこら中に溢れている環境であった。 そうであるにも関わらず、振り返れば友達も随分と減ったものだと司は今を振り返って感じた。 「僕が今よりもっと小さい頃、よく一緒に遊んだ友達がいたんです。その子はスポーツに打ち込むようになって、時間が合わなくなった。その内、一緒に遊ぶこともしなくなった。スポーツ仲間と一緒に遊ぶようになったから、僕が来ても知らない人が沢山いて……嫌だった」 小学校時代の友達と疎遠になって行くことに焦燥と罪悪感を覚え、司は一度だけ中学校になった後でその友達と半ば強引に遊んだ。本当は昔のように一対一が良かったが、それは叶わず一度も関わったことのない友達の部活動仲間に囲まれ、全員が気まずい空気の中で過ごした時間は今も忘れられない。 「ああ、これは無理だなって……たった一回、そう思ったらもう止まらなかったんです」 中学校においては多くの生徒が部活動に所属し、主にそれらを切っ掛けに特定のコミュニティの中で近しい志を持つ相手と関係性を築くと言う大切なプロセスを学ぶ。そして同じクラス、近い住所などと言った受動的な理由で始まった交流は相対的に影を潜めて行くものである。 部活動をやらなかった司は盛大にその翳りを被った。かつて仲が良かった友達が新しい世界に踏み出し、ゆっくりと自分から離れては消えて行く。司はそれを惜しみながらも繋ぎ止めようとはしなかった。繋ぎ止めると言う行動に伴う苦痛を知ってしまったからである。 現在は司も同じ塾と言うコミュニティの中でどうにか数人の友達を作り、孤独を退けることはできている。しかし今でも、学校の中でかつての友達を見かけると切ない気分になることは多かった。 「確かに僕は兄弟がいません。でも、だからこそ大切にしないといけなかった相手を何人も手放してきたんです」
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