雪消の候

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「まあ……君の話を完全には理解できなかったけど、君なりに色々と苦労をしてきたんだね」 「すいません。気が付いたら自分の話を夢中になって……」 「気持ちは分かるよ。吐き出したら楽になる……僕も弟の話をした時そうだったんだ」 胸中を曝け出し、軽くなった心で交わす対話はそよ風のように心地の良いものであった。しかしこれで問題が終わったわけではない。寧ろ方針が定まり、やっと解決に向けてのプロセスが始まったところである。 「じゃあ、改めて……お願いしても良いかな。フランソワ。レミューリアはどうしてマグナに厳しく当たるのか、本人から教えてもらって来て欲しいんだ」 「うん。私に任せて」 司とポールが互いの後ろめたい過去を持ち出しながら際限なく話のスケールを広げてしまったが、フランソワからしてみれば兄弟の仲直りを手伝うと言う本懐に変わりはない。ここで朗報を待っていて欲しいと皆に告げ、勇ましくダムの方へと登って行った。 「だ、大丈夫かなあ……」 「今度はどうしたって言うんだい、今更になって」 真っ向から頼み込んでおきながら、本人の姿が見えなくなってから弱音を吐く司をやや咎めるような口調でヴァイスがその真意を尋ねた。 「頼んだことに悔いはないけども、ちょっとタイミングが早すぎるんじゃないかって。まだレミューリアの頭に血が上ったままだったら聞き出すものも聞き出せないよ」 「ああ、だからさっきフランソワの去り際にもごもご言ってたんだ」 「フランソワが行けると思ったタイミングでね、とは言ったんだけどあんまり間を開けすぎるのも拗れるかなと思って……それに、マグナへの感情を爆発させた後だったらその根っこの部分が自分でも分かるようになってるかもしれないからね」 「でもまだ怒ってたら、その根っこの部分は聞けないから本末転倒だね」 「そうなんだよねえ……」 草原を吹き抜ける本物のそよ風を浴びながらも、そこに心を預け切ることができず悶々とした気持ちで皆はフランソワの帰りを待つのであった。
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