雪消の候

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どうか悟られぬよう、穏便に。しかしそれは後ろめたさを抱えた者の発想であり、フランソワには無縁である。 「ねえ、どうしてマグナとケンカしちゃったの?」 「ふーん。今度はフランを差し向けたってワケ」 フランソワは率直に尋ねた。実際に回答を得られるかはともかくとして、尋ねること自体は悪ではない。レミューリアも不機嫌であろうとそこは弁えてくれる。そう信じているからである。 「司さんから聞いて来てってお願いされたの。マグナも、ルシアも、ジークも、みんな気にしてたわ。私もね」 フランソワは単に頼まれたと言うだけで傀儡のように従っているのではなく、司側に賛同して明確に自分の意志で真意を尋ねに来たと言うことを告げた。 「そうね。理由を伏せておいたところで、誰も得をしないもの。と言うか、元々ちゃんと話すつもりだったのよ。それなのにアイツが意味分からないことするから……!」 レミューリアはマグナに溶かされ無残な姿となったオブジェを睨み付ける。あれから暫く修復を試みてはいるが、直線しか作り出せない工法で融解した曲線を補おうとしても上手くは行かなかった。 「相当怒ってたみたいね。此処に来るまでの道、尖った氷柱が色んな場所から沢山生えてて歩きにくかったわ」 「アイツ本当に無神経で、不用心で、先のことを何も考えてない。だから見てるだけでイラつくのよ」 「そんな言い方しなくても……」 「フランにはこんなこと言いたくなかったけど、貴女には分からないわ。私はマグナ以外がそんな性格だったら別に何も言わなかった。でもマグナだけは許せないの」 「ど、どうして……?」 素直に話してくれる兆しが見えたことに安堵していたフランソワだったが、その答えには困惑するばかりであった。
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