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「そりゃあ、水がドバっと溢れて大変なことになるよ」
「そうだね。大量の水は下流の農園に流れ込んで多くの作物を飲み込んで、町の人の暮らしに影響がでる。だけどそれすらまだマシな方だ。もしそこで作業をしている人がいたら……」
その言葉に、レミューリア以外の誰もが固唾を飲んだ。
自分達のミスで、誰かが命を落とす。今まで真剣に向き合って来なかった現実を直視したショックは小さくない。しかしレミューリアは、この仕事を任された瞬間からその重責を背負い続けて来た。
レミューリアの付き合いが悪くなった理由はこの上なく単純。持ち場を離れることができないからである。ダムに関する仕事で具体的な作業があろうとなかろうと、常に綻びや歪みが出来ていないか確認しなければならない。それを怠れば、とても自分だけでは償うことのできない大惨事が起こってしまう。故に、レミューリアが外出するのはよほど大切な用事がある時か、ロイやレイに仕事を代わってもらうことができる場合のみである。
「あたしは護らないといけない。お父さんから任された仕事場と、その恩恵を受けて暮らす多くの人達の生活を。子供だからなんて甘えたことは言ってられないのよ。この国の運命と、国民の命をもうあたしは背負ってるのだから」
そう語らうレミューリアの言葉からは、苦悩や迷いの影すら感じられない。伝わるのは重い覚悟と、その覚悟を長年身に宿してきた者だけが纏うことのできる凄みである。
本来この凄みは、ゼロから仕事を任された全員が持っていなければならない。その理想は時間を掛けて叶えるものだと俯瞰して見るだけの器量をレミューリアは持っているが、その視点を以てしても見逃すことができない相手が一人だけ存在する。
言わずもがな、それがマグナである。
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