雪消の候

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マグナの仕事場は、レミューリアのダムから更に山を登った火口の中にある。多くの子供達の仕事場を内包するこの山は活火山であり、その付近に王族の居城や首都が構えられているのは人間の感覚で言えば危険極まりない。 しかしマグナがその火山の噴気活動を制御し、地下に溜まったマグマを地脈を通じて広範囲に分散させることで噴火の危機は抑え込まれている。この国の主要となる殆どの町の下にはマグマが血管のように張り巡らされており、圧倒的かつ安定した熱源として活用されている。 「火山を管理してるとは聞いてたけど、そんなことになってたんだ……」 これまでに様々な冒険の舞台となって来た町の下に、触れただけで命を脅かすマグマが流れていたことに司は驚きを隠せなかった。 「国の発展や町の新設に合わせて、マグマを通す水脈は僕が整備してる。勿論可能な限り頑丈に作ってはいるけど、それでもこの星が生み出す最強の熱源には太刀打ちできないと思う」 ヴァイスが作り上げた通り道にマグナがポンプのようにエネルギーを送り込んでマグマを通す。その圧力や量を少しでも誤れば、最強の熱源は容赦なく無関係な者達に牙を剥く。事の次第ではレミューリアのダムが決壊した時以上の大惨事が起こっても不思議ではない。 「いや、俺だってちゃんと真剣に仕事やってるよ……」 マグナはそう言っているが、改めてその使命の重さを聞かされると司ですら出歩き過ぎなのではないかと考えてしまった。 司には大した科学や地学の知識はなく、マグナの能力がどの程度のレベルなのかも分からない。しかし似たような立場にあるレミューリアがこれだけ神経質にダムの管理を遂行していることを考えると、正しいかは別にしてもマグナが同程度の意識を持っていても不思議ではない。 否、そうでなくてはならない。レミューリアはそう考えているからこそ、マグナを特別視しその使命に殉じようとしないマグナのことが許せなかった。
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