雪消の候

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「お望み通り、ちゃんと教えてあげたわよ」 レミューリアは最後にそう締め括った。その言葉が彼方に消え去って静寂が訪れた後も、口を開く者はそう簡単には現れなかった。 その意識は子供にとって些か高すぎるものであり、特にマグナのような腕白に押し付けるには厳しいものがある。しかし、厳しいかどうかに限らずマグナはそのような高い意識を持つべき使命に従事してしまっている。 二律背反を起こしているようにも感じるが、レミューリアの主張はごもっともであると言う認識はマグナ以外の誰もが持っていた。 「あたしは別にマグナの性格そのものは嫌いじゃないわ。ただ、自分の背負った使命を自覚しない、危機感も持とうとしないおちゃらけた価値観の表れだから嫌いなの。ボイラー室に閉じ込められたこの間の事件だってそうでしょう。悪いヤツにしてやられたのは可哀そうだけど、アンタが油断してたのもあったと思うわ」 長きに渡って胸の奥に抱えていたわだかまりを吐き出すことができ、皆が黙ってそれに聞き入っている様はレミューリアにとって実に清々とした気分であった。 「責任が果たせないなら、お父さんに言って大人になるまで仕事は他の誰かに代わってもらいなさい。ロイでもレイでも、アノマリー叔母さんでもやろうと思えばできるはず。それなのにわざわざアンタに任せてるって言うのが、どれだけ重大なことか分からないの……!?」 ここまで言い切ってようやく、レミューリアは荒い息を整えた。今までは溜め込んできたものをぶつけただけであったが、その全てが抜け切った底の底で、最後に残った気持ちをポツリと呟いた。 「嫌味で言ってるんじゃないわ。本気よ。別にあたしは、それが悪いことだとは思わない。寧ろ悪いのはお父さんだとさえ思う。誰にだって向き不向きがあるもの。もしアンタがこんな性格に不相応な仕事をやってなければ、嫌いにならずに済んだのに。また昔みたいに、一緒に遊ぶことだってできるかもしれないのにね」
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