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(なんて恐ろしい……)
これが、歳不相応の責任を背負い続けた者の迫力か。レミューリアの畏怖されるところは冷徹な思考と鋭い物言いであると思われていたが、もう一段先があったことに司は舌を巻いた。普段覆い隠されているからこそ、最後に見せた素直な感情は鞘から抜かれた刀のような煌めきを放った。
理をものにし、それに自分の感情を絡めて叩き付ける。司はもし自分がマグナの立場ならば、浅慮を恥じて仕事の辞退を真剣に考えてしまうだろうと身を竦ませた。
「いや、心配してくれるのは嬉しいけど別に仕事は辞めないよ」
しかしマグナは逆に持ち直し、周囲を驚かせた。底の見えない理攻めよりも、感情を露わにした今の方が得意なフィールドであることが伺えた。
「そりゃあ確かに、レミューリアの言う通り俺達の仕事は特に重大かもしれないけどさ。それにしたって気負い過ぎじゃないのか?」
「分かった。もう良いわ」
レミューリアは手の平を象った氷の翼をマグナに向けた。それは冷たい拒絶ではなく、停戦の意志表明であった。
「あたしはケンカをしに来たわけじゃない。議論をして自分が正しいことを証明したいわけでもない。ただ、伝えに来ただけ。アンタが知りたがってる答えを届けにきただけよ」
「……ああ」
「確かに、あんたは今まで事故らしい事故は起こしてないわ。そこはこっちだって認めてあげる。ただあたしが個人的に心配して、あたしが個人的にアンタの姿勢が気に入らなくて、あたしが個人的に仕事を辞めて欲しいと思ってるだけ。どっちが正しいとかじゃない、そうよね」
「そう、だな」
まるで海に流れ着いた溶岩が急激に冷やされて固まるように、二人の態度も起伏が鈍くなっていた。しかし、ここで固まるのは正しいのだろうか。マグナが望んだ結果だろうか。誰もがその会話の行く末を見守った。
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