雪消の候

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「話はこれで終わり。聞きたいことは聞けたから、これで良いでしょう」 「待てよレミューリア、俺の話はまだ終わってない」 「あたしの話は終わったのよ」 「お前だって散々自分の気持ちを喋ったんだから、俺の話だって聞かないとフェアじゃないぞ!」 踵を返した背に放たれたその言葉に一瞬足を止めたが、レミューリアは聞く耳を持つことはなくそのまま走り去ってしまった。向かう先は魂を囚われた、あの仕事場である。 「みんな、追い掛けよう」 声を掛けられた司達は、思わず「えっ」と言いたくなってしまったところを何とか押し殺した。 「まあ、ちょっと落ち着けよマグナも。問題の根本は分かったし、レミューリアだってそこまで怒ってる感じでもなかったんだしさ。ここは一旦終わりにして、お互い頭を冷やしてから後日もう一回話し合っても良いんじゃないか?」 マグナを宥めるジークの言葉は、全員の心の声を代弁したものであった。 先ほどから修羅場に次ぐ修羅場を目の前で繰り広げられ、精神的な疲労は限界に近い。一応は平静さを取り戻したレミューリアをこれ以上刺激したくないと言う想いが胸中にあった。 またそれだけのリスクを冒してでもレミューリアに届ける言葉が、これだけ深くに根差している生き様の問題をすんなりと解決できるとも思えない。 先ずは一旦、この軋轢を終わりにして欲しい。それが総意であった。 「冗談じゃない!やっと、レミューリアが心を開いて話し合いができそうなところだったじゃないか!終わりにするどころか、始まってもいないよ!」 「は、始まってもいない……!?」 (なんて恐ろしい……) ジークはマグナの口から出た言葉を受け止めきれず、肩を掴み損ねた手を震わせながら後退した。
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