雪消の候

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嗚呼、腹立たしい。 ダム内部に設けられた作業部屋に戻ったレミューリアの心中は穏やかではなかった。 『そりゃあ確かに、レミューリアの言う通り俺達の仕事は特に重大かもしれないけどさ。それにしたって気負い過ぎじゃないのか?』 『お前だって散々自分の気持ちを喋ったんだから、俺の話だって聞かないとフェアじゃないぞ!』 あのマグナの能天気な反論と、野暮な引き留め。あれさえなければすっきりとした気持ちで本心を打ち明けて終わりにできる筈だった。しかし、本当はそれだけではない。本当に腹が立っていたのは、そんなマグナを咎めようとしなかった周囲の者達に対してであった。 どうして自分の訴えを聞いて、黙って見守っていられるのか。どうして自分に向かって気負い過ぎだと言うマグナを野放しにしておくのか。 どうして、誰も分かってくれないのだろうか。 「……あたしは、こんなに頑張ってるのに」 不相応、そして不公平な重荷を背負ってこれまで頑張り続けて来た。だがマグナや他の兄弟は自分のことを冷血でドライな気質だと決め付け、こともあろうにそれを咎めようと言うのだ。そんな言葉に耳を傾けられる筈がない。 やはり、見せ付けるしかないのだろう。マグナ達が遊び惚けている間に、どれだけ自分が努力を重ねてきたのか。己の能力に磨きをかけてきたのかを。 そのためには、ゼロに贈る氷像を造り直すしかない。マグナに壊された最高傑作以上のものを必ずや仕上げて多忙な父の苦労を労う。そして今度こそ認められ、自分だけを褒めてもらうのだ。 (だけど、それすら叶わなかったら……?) ゼロは、優しい自分の父は、子供達から贈られたプレゼントに優劣を付けるだろうか。仮にプレゼントの質に歴とした差が付いていたとしても、それをわざわざ口にして遠回しにでも他のプレゼントを貶したりするだろうか。 きっとしない。また、他と同じにされる。同じじゃないのに。自分は、誰よりも頑張っているのに。 何処かで、ヒビの入るような音がした。
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