雪消の候

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脳内に余裕なく詰め込まれた心の声は、思考を鈍らせ判断を遅らせる。正常であれば『たった今鳴り響いたのは本物の衝撃音』と言うことは瞬時に気が付くことができるものだが、レミューリアは悲惨な空想と危機迫る現実の区別が付かなくなっていた。 「えっ……!?」 我に返ったレミューリアの目の前で刻々と広がるダム壁のヒビは、弱者を捕らえ握り潰そうとする運命の手の平のようであった。 ここで、ようやく思い出した。マグナに作品を壊されたことに激怒し、遅れてやって来た司達もろとも通路に幾つも氷柱を突き出して追い立てた。そしてその氷柱の素になった氷はダムの内部から供給されている。 レミューリアは今ここに戻って来るまでの帰り道において、放置されていた氷柱を苛立ちに任せて片っ端から砕いて回った。その成れの果ては時間が経てば床や壁に吸収されるが、今はまだ破片のまま散らばっている。 やり過ぎた。 水圧の強いダムの下部にぽっかりと空いた作業空間が維持できていることでさえ、王家の血だけが成せる魔法にものを言わせた荒業であり、ここから壁を厚くする判断はあってもその逆は決してない。しかしその決してないことが起こってしまった。大量の氷柱を供給したダムの外壁が薄くなり、遂に臨界点を超えた。 「あ……嘘……」 再び氷を操って壁を修復する。体を張って食い止める。或いは後者で時間を稼いでその両方。或いは、身の安全を優先して逃げるか。 あれほど恐れていた致命的なミスが目の前に迫っている。様々な選択肢と共に恐怖と焦燥が一斉に襲い掛かり、レミューリアの思考はフリーズした。それでも時間は凍らない。竦み上がったレミューリアの周りを悠々と流れ去り、然るべき結末へと滞りなく到達した。
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