雪消の候

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「レミューリア、何ボケっとしてんだァ!!!!!」 「ッ……!」 怒号、そして叱咤激励。噴火の如き大声がレミューリアの心身を揺さぶった。 無論、その声は副産物に過ぎない。マグナは声を張り上げてエネルギーを限界まで放出し、自身の器量を超えて能力を発揮した。 ダムの少し先にはマグナの持ち場である火山がある。そこから国中へ駆け巡る熱の地脈は当然このエリアもカバーしている。地下からマグマを呼び寄せて噴出させ、荒れ狂う水流に真正面からぶつけた。水と接触して冷却されたマグマは次々と黒曜石に変化し、ヴァイスの土の壁と合わさることで新たな障壁を作り出す。 更なる足止めの代償として、あまりにも大き過ぎる熱エネルギーに触れた大地は爛れ、草木は瞬く間に燃え尽きた。しかしその光景にヴァイスやフランソワが心を痛めている余裕はない。最も早く能力を行使できるヴァイスが水を止め、次にマグナがそれを補強し、最後にフランソワがようやく植物を動かし始める。ヴァイスの壁に木の根を通し、植物を編み込んで強度を上げる。更にそれらの植物が水分を吸い上げることで水流の勢いを殺す。 だがここまでやっても、できることは時間稼ぎのみである。根本を解決しなければ長くは持たない。 「いい加減にしろよ!!いつまでそうしてるつもりだ!!」 「あ、わ……」 二度目の怒号でようやくレミューリアは体の自由を取り戻した。 水流を追わなくて済むのであれば、ダムに空いた穴の淵に手を這わせ、凍らせながら塞ぎ込むことは容易い。そして水源を絶ち流れさえ止めてしまえば、一ヶ所に留まっている水を凍らせて安定させることもまた実に容易い。この世の終わりかのように思えた悪夢の災害は、済んでみればものの数十秒で幕を閉じたのであった。
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