雪消の候

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「大変なことになんか、なってないだろって!」 確かに今回に限って言えばマグナの言っていることは正しい。レミューリアの恐れていたことは起こらなかった。大事には至らなかった。何故なら、皆が頑張ったからである。 しかしレミューリアはその事実を正しいと認めることは辛うじてできたが、だから良かったとはどうしても思えなかった。 「だけどそれは、たまたま運が良かっただけじゃない」 「だからあ……」 「マグナ。代わってよ」 まだレミューリアは動揺から抜け出せていない。情熱で押し通そうとするマグナでは、頭が半分程度しか回らない今のレミューリアにとって少々言葉が足りないと察したヴァイスが前に出た。 「君の言う通り、次もこう上手く行くかは分からない。ミスなんてしない方が良いに決まってるよ。だけど、少なくともこれで分かったんじゃないかな。僕達だって、レミューリアの力になれるんだって」 「……!」 その時レミューリアはやっと気が付いた。自分が恥じるべきだったのは、身勝手な理由からミスをしてしまったことでもなく、それを兄弟に助けてもらったことでもない。ダムの管理は自分の仕事なのだから、他人が立ち入る余地はないと決め付けた驕りであった。 マグナが繰り返し伝えた通り、レミューリアが脳裏に描いた悪夢、大惨事は未然に防がれた。しかしこれもまた真の姿ではない。本当に幻だったものは、誰も助けてくれないのだから自分がやるしかないと言う孤独であった。 「確かに俺達は氷の魔法は扱えない。氷のダムを管理する仕事を手伝えって言われても無理だ。寧ろ俺なら溶かしちゃうだろうからな!」 だがそれでも、困っている時は助けになってくれる。レミューリアはその言葉が持つ本当の意味を理解した。
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