雪消の候

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備えあれば憂いなし。正にそんな言葉を体現しているかのようであった。 無論、実際にその備えが有用であることが過去に確かめられたわけではない。しかしどれだけ想定外のことが起ころうとも「皆で協力して助け合う」と言う大切な芯が曲がることはきっとない。そのことだけは今、はっきりと確かめられた。 「真剣じゃなかったのは、バカだったのはあたしの方だったのね。自分の力だけで仕事がやり通せると思い上がってた」 「そこまでは言ってないぞ。現にレミューリアは今まで、たった一人でこのダムを管理し続けてきたじゃないか」 「でもそれはあくまで今までじゃない。これから先に続く未来を考えたらほんの僅かな時間に過ぎないわ。きっといつか、同じような事故は起こってた。その時の備えをしていかなった時点であたしは甘かったのよ」 ミスなどしたくない。事故は起こらないに越したことはない。その気持ちはレミューリアもマグナも同じ。二人の明暗を分けたのは、それでもいつか不慮の事態は起こるものだと言う本質が見えていたかどうか。 「あたしは自惚れていたの。ミスは気を付ければ無くせるって。でもそんなことはなかった。減らせても、完全には無くせない。マグナはそれをちゃんと分かってた」 マグナはレミューリアに比べて繊細さや注意力が優れているとは言い難い。だからこそ自分がミスをした時の備えと心構えができていた。その達観をレミューリアは場違いな能天気だと見誤ったのであった。 しかしそれでもまだ、レミューリアは自分自身を理解できていない部分がある。 「あたし……どうして皆を頼らなかったんだろ。確かに自分で言った通り、あたしの仕事は他の誰にも手伝えないとは思ってたけど、だからって皆が頼りないなんて思ったことはないわ。なのに、どうして……」
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