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「お、終わった……」
結局何の苦痛も無く、魔法陣は自分の中に溶け込むようにして消えたようだ。
と言うのも、司は全身を強ばらせ目を瞑ってしまっていた。椅子に座っていることもあり、まるで歯医者にでも来ているかのようである。
「立ってみろ」
できればこの状況そのものが夢であって欲しいとも思ったが、残念ながら目を開けても目の前にある光景は魔法陣以外何一つ変わらない。しかも今度は竜が長い首を伸ばしてこちらに覆い被さるようにして見下ろしている。
「うわっ!」
あまりの近さに司は面食らい、もはや言われた通り立ち上がるか椅子ごとひっくり返るかの二択。たまらず椅子を蹴り、竜と距離を置こうとするがそれも叶わない。
竜の身長は四メートルと少しのようだが、迫力は人間の百倍ほどにも感じた。足を一歩踏み出せば、後退る司の首どころか回り込んで後ろ襟にまで手が届く。
「何故逃げる。まさか私が、怖いのか……?」
しかしここまでしておいて、その竜は司が怯えていることにショックを受けているようであった。
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