第1章

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「あれ、大木さん?」 またかと思い私は振り返った。 「えっ、大木さんじゃないの?すみません」 「ええ、大丈夫ですよ。最近よく間違えられるんですよ。そんなに、大木さんという人に似てますか?」 私を大木さんと間違えた若い女の子は申し訳なさそうに答えた。 「ええ、よく見ると別人とわかるんですけど、仕草とか、雰囲気とかを合わせるとそっくりなんです。あっ、気を悪くしたならごめんなさい」 「いえ、大丈夫です」 その娘は気まずさから逃げるように足早にその場から立ち去った。。 私は地方の私立大学に通っている平凡な学生だ。顔も少し緊張感に欠けるといわれるぐらいで人並みだし、体形も中肉中背でいたってで普通、これといった特徴はない。 外見だけでなく、バイトにサークルに最後に学校の授業にと極めて平凡な生活を送っていた。 しかし、最近その平凡な生活にちょっとした変化が起きた。先の「大木さん」だ。最近頻繁に間違えられる。ひどいときは日に2、3回「大木さん」と声をかけられる。私自身はその大木氏にあった事がないので何だか気持ちが悪い。大木氏には悪いが、何か実体の無いものに追いかけられている気持ち悪さがある。 このことを学食で昼を食べながら友人の鈴木に言ってってみた。 「大木さんねー。知らないな。間違えられるのは主に学内なんだろう。この大学の人かな?お前もつまらんことを気にするよな。まあ俺も何か耳にしたら知らせるから気にするなよそんなこと」 確かにどうでもいいはなしだが妙に座り心地が悪いというか奥歯に物が詰まっていいるというか、心のひだにひっかっかっていた。 私は鈴木に何かあったら知らせてくれと頼み別れた。 鈴木が早くも情報をもたらしてくれたのは1週間後であった。もうすぐ始まる法学の授業の前に鈴木は手短に教えてくれた。 「ちょうど昨日、経済学部棟の前で5、6人で談笑してる大木さんをみたぜ、まあ、似ていると言えば似てるな。ただ、お前の言ったようにそっくりってわけではないんだが、仕草とか、雰囲気とか合わせると不思議と似てくるんだ、前世で兄弟だったんじゃないの、はは」 鈴木の話を聞いて不思議と安心した。いままで実体がなかったのが友人が見てくれたおかげで、実体のある人間だと実感できたからかもしれない。さらに鈴木は続けた。
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