第1章

3/4
前へ
/4ページ
次へ
「ちょうど大木さんと話していた人の中にサークルの先輩がいて聞いてみたんだけど面白いことがわかってな...。」 鈴木の話によると、大木さんは経済学部の2年生で私と見かけ以外に共通点がたくさんあるというのだ。 大木さんは岩手の出身。実は私も岩手出身で隣町の生まれらしい。そして大手の牛丼チェーン店でバイトしている。私も同じ牛丼屋でバイトをしているが彼は駅前店で私はB町店でオーナーが別人のため直接の関わりはない。サークルはテニス同好会、わたしもテニスをしているが団体は別で交流はない。 「これって結構な偶然の一致じゃないか、シンクロってやつか」 鈴木はそう言うが、地元が一緒とかバイト先が同じチェーン店とかテニスサークルとか典型的な学生生活とも言え、取り立てて驚くほどでもない。 だが私は今まで気味悪がっていた反動か家族の親近感、むしろ自分の分身のような気がしてきた。会ったことのないことが悪い方向に想像が働いていたのが逆に良い方向にいってしまったようだ。何となく大木さんと会ってみたいと思うようになった。しかし、そんな状況に大きな変化をもたらしたのはまた鈴木であった。 さらに1週間後、少し興奮した様子で鈴木はお昼の学食に現れ私に話しかけてきた。 「大木さん、亡くなったらしいぜ」 私は、驚いた。 「バイトに行く途中車に轢かれて、即死だったんだって」 大木さんはバイクでバイトに行く途中信号無視の自動車に運悪く衝突してしまったらしい。 「それは残念なことだ、ただただ悲しいよ」 私は会ったこともない人なのに大きな喪失感にとらわれた。 大木さんは会えずじまいだったな。私は帰宅の道を一路、自転車で疾走していた。会ったこともないのにまるで手足をもがれたような、大事なものを失ったような虚無が私を襲った。 一度会ってみたかったな。 しばらく続いた登り坂を上がり切った。ここからは下りを降りてすぐ左に折れれば我がボロアパートだ。 私は最後の下り坂の疾走感を楽しむべく飛ばした。そして、鋭く左へ折れ曲がった。 左に曲がった瞬間いつもと違う景色が見えた。目の前が真っ黒だった。それは、何故か知らないが赤信号をもろともせず突進してきた大型トラックだった。 何故かその時思い浮かべたのは恋人でも家族でも親友でもなく大木さんだった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加