第一章 出張

3/7
前へ
/20ページ
次へ
 なんでも親から見合いを勧められているらしいが……。  まあ、寿退社をめざすOLなんかどうでもいい。  今は移動の問題を解決し、明朝には函館に入らないといけないのだ。  (嫌だ! 故郷に戻るなんて!)  なにを隠そう、俺の故郷は福井県の小浜――アメリカ初の黒人大統領と同じ名前の自然豊かな場所で、魚がめっぽう美味い。赤字路線と糾弾されている高速鉄道が通るかもしれない未来の都会だ。 ただし、それがいつになるかは未定だし、もしかすると俺がオッサンか、定年になった頃かもしれない。  今も思い出す。オバマ饅頭というオバマ大統領の顔が描かれた、酒まんじゅうの味、素朴な味の餡子から、ちょっぴり日本酒の香りがしたもんだ。  高校生の時、それを食いながら、しみじみ思った。  (未来都市より、現実の都会で活躍したい)  その願い叶って、東京の大学を卒業し、めでたく食品会社の本店に入社できた。  ストイックに猛勉強した努力のたまものだ。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加