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「お父さん、お父さん」
「許してくれ、許してくれ」
お父さんが泣きながら言いました。
「ヒメが泣くから、お父さんが苦しいのよ」
お母さんが言いました。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「堪忍してくれ、堪忍してくれ」
それから、お父さんは苦しみ抜いて死にました。
たけねこを刈っていたのはお父さんでしたが、それからはお母さんがするようになりました。
たけねこが生えてくると、それをお母さんが鎌で刈ります。
「なんで刈るの?」
「生えてくると五月蠅いでしょう? だから刈るのよ」
「ヒメ、あの声キライ」
だから、竹藪には近づかなかったのです。
たけねこは、他のうちでも生えてくると思っていました。
ところが、それがうちだけの特別なことだと気づきました。
友達のうちで仔猫を見せてもらったからです。
「ミャアー、ミャアー」
生まれたての仔猫はとても可愛くて、わたしの指を小さな舌で舐めていました。
それがとてもくすぐったくて、ふるえる手足が弱々しくて、わたしも仔猫を飼いたくなりました。
お母さんが刈る前に、たけねこをコッソリと抜いちゃえばいいのだと考えたのです。
また今日も裏庭で、たけねこがニャーニャーと鳴いています。
お母さんが寝たのをたしかめて、わたしはコッソリと裏庭に行きました。
月のない夜──裏庭は暗くて怖かったけど、仔猫が欲しかったからガマンしました。
「たけねこ、たけねこ」
たけねこの鳴く声が聞こえないから、懐中電灯の明かりで生えている場所をさがしました。
「たけねこ、たけねこ」
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