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と、アンネゲルドさんが顔を覗かせる。
「あ、これは私も若い時にお世話になりましたね。これにします?」
アンネゲルドさん推薦(違う)ともあれば選ばない道理はない。感性が似ているのだと思えばそれはそれで良い。
「そうですね、とりあえずこの本で進めてみようかと思います。あ、いくつか質問があるんですけど――」
俺がアンネゲルドさんにした質問はこうだ。
一つ、この世界に自然科学あるいは量子力学もしくはそれらに類する学問が存在するかどうか。
一つ、書物を複写する魔法もしくはそれに類する技術や道具が存在するかどうか。
対するアンネゲルドさんの答えはこうだ。
一つ、自然現象はそれ以下でもそれ以上でもない神の御技である。
一つ、紙とペンで転写するしかない。
ただ見たところこの世界でもいわゆる状態変化や化学変化は頻繁に行われているようだし、単に科学水準が低いと見た方がいいだろう。魔法なんてものがある以上、未知の物質があってもおかしくはないのだが。ともあれおよそ物理法則の埒外ということもないようなので、そこは一安心と言える。
「本当に何から何まですみません、助かります」
「いえいえ、勝手に喚び出したのはこちらなのでこのくらいは当然ですよ」
少しずつ分かってきたのはアンネゲルドさんがかなりのお節介しいであるということ。俺からしてみれば願ったり叶ったりなのだが。
「それにしてもこちらに来たばかりだというのにタケル君は、どうしてなかなか行動力がありますね」
字面は堅いが、褒めてくれているのだろう。美人な人にそう言われて、悪い気はやっぱりしないよね。
「単純に、俺の理念みたいなものですよ。現状を把握して、次に何をしたいのか、どうすべきか考えて、方法を模索する。基本的にそそっかしいところがあるので、自制しないと迷惑かけちゃうんです」
それで子供の頃にどれだけ親に迷惑をかけたことか。過ぎたことを悔いても仕方ないが。
「なるほど。ちなみに、タケル君は今、何がしたいのですか?」
「――旅、ですかね。せっかくだったらこの世界の色々なところを回ってみようかと。アンネゲルドさんは旅の経験とかはおありですか?」
「お恥ずかしい限りですが、私ハーゲンヴェルト生まれのハーゲンヴェルト育ちでして、生まれてこの方、旅というものは……」
しょぼんぬアンネゲルドさん再び。ちょ、何でここで。どうしよう。
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