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「それは聞いたことがないですね……金属や鉱石を変質させる魔法はありますが」
「やっぱり」
錬金術の類はあるだろうと思っていた。
何もないところから物質を生成する――つまり魔素を掻き集めて物質を生成する、なんてことができたら魔素が質量を持っていることの裏付けになる。
さて、せっかくアンナさんが持ってきてくれたので紙に色々とメモをしていこう。
・魔法とは生物の精神に依存する能力である。
・魔法を形式的に四大元素からなるものとして大別する。
・魔力とは生物の体内及び空気中に存在する。
・魔法は魔力を練って発動する。
・魔力の素である魔素は質量を持たない量子である。(仮説)
・上の仮説の裏付けの一つとして物質生成魔法は存在しないことが挙げられる。
エトセトラエトセトラ。今日纏めたものはおよそ十数枚に及ぶ。根気良く付き合ってくれたアンナさんにも感謝しなきゃである。
「今日はありがとうございました、アンナさん」
やけに幅広い廊下を歩きながらその意を述べる。
「いえ、感謝には及びません」
「また機会があればお願いします」
興味のある分野を勉強するのはやはり楽しい。しかもとりわけ知らない分野であるので新鮮だ。
「機会があればと言わず、また明日にでも」
どうやらアンナさんのお節介スイッチがオンになったらしい。めっちゃグイグイくるなあこの人。
「ここが私の部屋ですので、何か御用があれば戸を叩いてもらえれば。何も御用がなくても是非に!」
……ホントグイグイくるなあ。
「明日は頭の中の理論を実践しようかと」
「確かに理論と実践は表裏一体ですものね、分かりました。私も立ち会いましょう」
うん、だから、あのね?いや別に全然構わないというかむしろウェルカムでさえあるんだけど、何だろうこのムズ痒さ。
「あ、タケルの部屋はここのようですね」
相部屋らしいのだが生憎男子の数は奇数。どういうことかと言われれば俺がハブられた。泣きたい。内装は高級ホテルのダブルといった様相で、庶民な俺には慣れるのに一苦労しそうだった。
トイレや浴場は別のフロアに公共のものがあるらしく、そちらを利用するように言われた。
「それでは、タケル。また明日」
「……また、明日」
うんとりあえず今日はもう寝よう。何も考えたくない。
翌朝。不慣れなやや大きいベッドから身を起こす。夢じゃなかったかあ……。
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