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夜。泣く子も黙るというか草木も眠るという時間。泣く声などしないが、鳴く声は聞こえてくる。それは甲高い鳥の声であったり、底冷えするような獣の声であったり様々だったが、少年の耳を支配していたのは、艶やかな声――嬌声だった。
およそ鉄でできているであろう内装の無機質な部屋。広さはおよそ二十畳ほどだろうか。家具はなく、あるのは寝具――有り体に言えばキングサイズはあろうかというベッドに、申し訳程度のサイドテーブル。
欠けた月のほのかな明かりが映すのは、その大きなベッドに横たわる少年と、その少年に跨がる女性。これから行われるであろう情事を目撃するものは、この二人を除いては夜空に浮かぶ月のみ。三日月に照らされた二つの影が妖しく伸びる。
そんな、現実離れした光景の中で、少年はなけなしの理性で以って思考する。
――今自分に跨っているこの女性は果たして人間なのだろうか。豪奢な金色の長髪。雲形定規で引かれたような綺麗な眉。大きくはっきりとした瞳ながらも優しげな目尻。高過ぎない鼻に、桜色のふっくらした唇。傾国のとも絶世のとも称賛される端正な顔立ちだ。
ほっそりした首に、見事な流線形の肢体。痩せ過ぎず太過ぎない、その絶妙なプロポーションは偶然の産物かはたまた努力の賜物か。羽織られただけの衣類はもはやその本来の用途を果たしていない。白魚のような指先は唇にあてがわれ、女性の妖艶な仕草が少年の鼓動を加速させる。
特筆すべきはその――胸、であろうか。少なくとも、少年の膨らんだその一物をすっぽり包んでしまうほどの巨峰。何回豊胸手術したらこうなるのだろうか、などと考えていたかは少年のみぞ知るところである。
して、その瑞々しい唇が、動いた。
「ようこそ、私の城へ――淫魔の国へ。今晩は私が手ずから相手をしてあげるわ、坊や。この淫魔王――アリーシャ・アイゼンナハト・フォン・ガスパニョールがね」
それは酷く、この世のものとは思えないほどに甘美な響きだった。
どうしてこうなった。夢だったらそう呟かずに済んだだろうが、残念なことに現実だった。俺は頭を抱えたくなった。ふと視線を横にやれば、そこには全裸の女性がいた。そりゃそうだ、するのに最終的に服は邪魔になる。問題なのはその様子である。なんかめっちゃピクピク痙攣してるのだ。どこがって腰に決まってんだろ。対して俺はピンピンしていた。ビンビンじゃない。
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