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 創作意欲をなくしたぼくは、社会人の一員となった。  大学を出て、父が経営する製粉会社にコネで入っただけであり、ぼく自身は努力していない。努力の必要がなかったからこそ創作活動に打ち込めたわけだけど、それも結果は散々なものだ。  ぼくは小説を書いていた。  はじめに筆を取ってからもう五年が過ぎた。新人賞へ送った作品は八作を数えて、そのいずれもが箸にも棒にもかからず、自分に才能の萌芽はなかったと理解した。ぼくももう二十二歳であり、何かを始めるには遅い歳になっていた。ここらでこの小説という存在と縁を切り、別の何かを始めようか思案しているところだ。  だから、これは思い出づくりである。  これまで賞に送ることしかしなかった小説をネット上で公開するのである。もっとも実力に関しては察しのとおりであるからして、ただ、公開するだけでは人の目に触れることはないであろう。  ぼくには光が必要であった。ぼくの作品を照らしだす光がほしかった。その光のもとならば、ぼくの作品はたくさんの人々の目に触れることだろう。ぼくはぼくの作品が多くの人間の目に触れることを切望している。それを書いたのがぼくであると周知することはないとすら思っている。
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