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ある老人が語る…。
お前さん…。
お前さんは見た所、ワシなんかよりずっとお若いが…
それでも、これまでの人生で、いろんな物をなくし…その代わり、いろんな物を手に入れた事だって有ったじゃろう。
そう。
生きてりゃ、いろんな物をなくす…。
でも、その代わりにいろんな物が手に入る事も有る…。
例えば…
気ままな独身生活をなくした代わりに…
バラ色の新婚生活が手に入る。
例えば…
愛する人をなくした代わりに…
莫大な保険金が手に入る…と、まあ、これは冗談じゃが。
実は…
ワシも、ある大事なものをなくしてしまっての。
それは…
まあ、見ての通り…『若さ』じゃよ。
おいおい。
笑わんでくれよ。
当たり前の話じゃが、
老いは誰にでもやって来る。
でもな。
若さは失ってしまうが、その時に頑張って生きてりゃ、安楽な老後を手に入れる事ができるというものじゃろ。
ワシは、この歳じゃが…
実は、まだまだ現役なんじゃ。
ワシの周りは皆、若いヤツばっかりでワシのような老いぼれは、誰一人としていやせん。
最初は、ワシも凄く不安じゃった。
こんなに歳が離れた若いヤツラと、これから上手くやっていけるのか…とな。
ところがじゃ!
こんな老いぼれが、ワシ一人だけという事を知ると…
周りの若いヤツラは皆、ワシを尊敬して、同時に気遣かってくれるようになったんじゃよ。
時には、
「一緒に頑張りましょう!」「強く生きていきましょう!」とこんな老いぼれのワシに声をかけ、口々に励ましてくれる。
そん時、思ったよ。
「ああ、歳をとるのも悪くないもんだな。若さをなくしてしまった代わりに、周りの若いモン達からの暖かい気遣いを手に入れた…」とな…。
だから、お前さんも見た目が老いぼれだからと言って、ソイツを邪険に扱ったらイカンよ。
え?
もちろん、そんな事しないじゃと??
ウソをつけ!!
お前さん…
昨日…
この老いぼれを…
このワシを
邪険にしたじゃろうがぁぁぁっ!!!
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