episode192 肩すかし

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「ああ、和樹くん」 姿はないのに声がした。 「どうぞ、入って」 デスクの前に屈みこんだまま 花村一路は僕を招き入れる。 「ちょっと待ってね……今」 探し物の途中か。 「どうぞお構いなく。これを置いたら帰りますから」 僕はわざと冷たく言い放つと デスクの上に昨日借りたテキストを戻した。 「それじゃ」 早々に背を向けて 一歩 二歩 彼から離れる。 ある意味賭けだ。 「ダメダメ、君に見せたいものが」 三歩離れたところで 僕の背後――慌てて彼が立ち上がった。 「何ですか?」 僕の勝ちだ。 満面の笑みで振り向けばそこには――。
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