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反射的に藤沢さんとの距離を取った私の背からは、尚も異音が断続的に起きている。
(海月さんっ)
悲鳴の様なテレパシーを伝え、追い縋ろうとする彼に向かって黄金の巻貝を放った。
貴重な新種を受け取るか、私を追うかに迷った彼は応える私の冷静な意識に触れて巻貝を選んだ。
(何が壊れたのです?)
(……ボンベそのものに亀裂が入り初めている)
そう意識が伝わった途端、背中で何かがはじけ身体が前方に強く押し出された。
ショックと共に呼吸が苦しくなる。
恐らくは予備に付けられている液体酸素が、急激な気化に因る膨張を起こしたのだろう。
爆発的なエネルギーに破損し、筋力のサポートの為に取り付けられている外部マニピュレーターが視界の端を掠めて暗黒の水底へと落ちて行くのが見えた。
特殊なゴムやジェル状溶液での多重構造に成っている潜水服に致命的な傷は付かなかったらしい。
お陰で私は、未だ正常に意識を保っていた。
藤沢さんを万が一の事態に巻き込まなくて済んだと安心する。
(……どちらにしろ空気が無ければ、生きて帰れませんよ)
(海月さん)
今の衝撃で大半の機器類はやられてしまった。
頭部に着けていたライトの光も今は無い。
そんな真っ暗闇の海の中で、藤沢さんのライトだけが強い光を放ち、暗黒の宇宙に輝く恒星の様だった。
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