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死者を甦らせる方法は二つ。
クローンを作るか、殺人を犯した加害者の個性を奪い、その肉体に死者を甦らせるか。
どちらも一長一短の選択肢。
クローンは生前の記憶を引き継げないし、何より赤ん坊以前からやり直す事になる。
でも、嫌な記憶を忘れ人生をやり直せると受け入れられた。
罪人の肉体に甦らせるには、被害者の頭部が無事で有る事が重要で記憶は引き継げる。
保存しておいた頭部の移植に、その他の外科的手術とリハビリが必要なだけだし社会復帰もクローンよりは早い。
ただ、その心の入れ物は他人のものだ。
私は後者……再利用が可能な身体に甦った。
高校卒業間際、暴漢に襲われたのだ。
年齢が二十歳と、私と大して違う訳でもない彼の言い分はこうだった。
「未来の有る奴等が羨ましいんだ」
彼は二年続けて大学入試に失敗し、結果として悪い部分を自分の外に求めるまでに捻くれ、名高い大学付属の高校生の未来を奪う事に固執してしまったらしい。
最初に目を付けられ、馬乗りになって身体の至る所を滅多刺しにされた私は、その事件での唯一の死亡者に成る筈だった。
内臓器官も四肢も手術に因っての修復は不可能で、その中でずっと睨み付けられ暴言を叩き付けられていた頭部だけは綺麗で。
多くの人が犯行の一部始終を見ていたからこそ、二十歳のその人は法に因って個性を奪われた。
だから私は、病院で再び意識を取り戻した時、生きている事に安堵し感謝した。
自分の身体が本来のものではないと気付いて、悲しくも感謝は直に絶望に変わったけれど。
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