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(やっと、苦しみから解放されます)
息がもう続かないなと思った瞬間、私は驚くべき光景を目にしていた。
藤沢さんが手にしていた容器を開け放ったのだ。黄金の巻貝が僅かなライトの光に輝きながら、閉じ込められていた金属の器と共に元有る場所へと帰って行く。
続いて彼の背負っていたボンベも。
何時の間にか抱き締められていた。
(……僕もリターナブルだ)
そうして彼のイメージが、私の中に鮮明に入り込んで来た。
過去の彼自身。
ひ弱で内気で、目立たない様に生きていた彼の姿が。
格好のいじめの標的にされ、自殺を余儀されなくなるまで追い詰められた彼の思考が。
最後に……無邪気で残忍な笑顔で、人気の有る級友に教室の窓から突き落とされる映像。
相手は戯れだったのかも知れない。
(彼は自分で責任を取った。僕の身体は彼のものだ)
意識の声が震えている。
イメージには人を殺した罪に苦しみ、自らの命を断つ級友の姿。後から探し出したか、雑誌の記事にセンセーショナルに文字が躍る。警察官の拳銃を奪い、頭部を撃ち抜いて死んだ少年と。
同時に甦った藤沢さんが、彼を真似して明るく振る舞って来たのだとも伝わって来る。
ああ、こんなに繊細な人だから、何時も気を使って皆に分け隔てなく接する事が出来たんだ。
(同じだね。どうあっても孤独にしか成り得ないから、せめて未来の人に名前を覚えて貰おうと考えた。君もそうだよね、海月さん)
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