7人が本棚に入れています
本棚に追加
(……うん、そう。だから深海の研究者を目指し、残された秘境を探るダイバーに成って、新種の発見を目指したの)
そうだよ。
他人の身体では誰かを特別に愛せなくて、自分の命を未来に繋ぐ事は出来なくて。
でもせめて、誰かに名前位は覚えていて貰いたくて足掻いたの。
その癖、心の何処かで終わりを望んで、危険と隣合わせの仕事を探した。
藤沢さんから伝わって来るイメージも一緒だ。
死を選ぶには、皆の善意が楔と成って出来なかったと。
でも今なら事故として逝けるから……。
泣いているんだろうね。藤沢さんの震えが分かる。
私はもう力を失って、彼と彼のマニピュレーターに支えられているだけだ。
意識は最早朦朧として、自分が息苦しいのかも分からない。
上方から絶え間無く降り注いで来るマリンスノー。
ライトが照らし出す命の欠片は美しかった。
数多の命の活動を終えた小さな亡骸達。
別の命を繋ぐ恵み。
そこに心は無いだろう。
私達も二人して海底へと沈み、知らぬ命を繋ぐ糧と成る。
もしかしたら、あの黄金のスケーリーフットが私達を一番に食べる生物なのかも知れない。
夢想でしかない事を考えながら、私達は静かに海底へと沈んで行った。
……もう私達は、他人の身体を借りて生きる必要は無いのだ。
最初のコメントを投稿しよう!