リターナブル

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(……うん、そう。だから深海の研究者を目指し、残された秘境を探るダイバーに成って、新種の発見を目指したの) そうだよ。 他人の身体では誰かを特別に愛せなくて、自分の命を未来に繋ぐ事は出来なくて。 でもせめて、誰かに名前位は覚えていて貰いたくて足掻いたの。 その癖、心の何処かで終わりを望んで、危険と隣合わせの仕事を探した。 藤沢さんから伝わって来るイメージも一緒だ。 死を選ぶには、皆の善意が楔と成って出来なかったと。 でも今なら事故として逝けるから……。 泣いているんだろうね。藤沢さんの震えが分かる。 私はもう力を失って、彼と彼のマニピュレーターに支えられているだけだ。 意識は最早朦朧として、自分が息苦しいのかも分からない。 上方から絶え間無く降り注いで来るマリンスノー。 ライトが照らし出す命の欠片は美しかった。 数多の命の活動を終えた小さな亡骸達。 別の命を繋ぐ恵み。 そこに心は無いだろう。 私達も二人して海底へと沈み、知らぬ命を繋ぐ糧と成る。 もしかしたら、あの黄金のスケーリーフットが私達を一番に食べる生物なのかも知れない。 夢想でしかない事を考えながら、私達は静かに海底へと沈んで行った。 ……もう私達は、他人の身体を借りて生きる必要は無いのだ。
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