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食物の少ない世界では恵みでも有りながら、巻き込まれれば命を奪われてしまう泥の流れ。
暗闇に恐怖心を引き摺り出され、動転した私は訳の分からない思考に陥った。
そのせいで必死に呼び掛ける藤沢さんのテレパシーにも一時応えるのを忘れていた程だ。
サポートに付く彼が直ぐにライトで照らし出してくれなければ、私は恐怖の為に二度とダイバーとして深海に潜れなくなっていたかも知れない。
そうだ、不妊に成る原因の一つが、このテレパス剤との相乗作用だとも言われているんだった。
でも使えないと困る。
通信機材を減らせる便利さから研究者の間では良く使用されるテレパス剤。
薬剤の量の調整次第で最大二十四時間は効果が持つし、経口剤として水無しでも飲み込める点も有り難い。何より訓練しだいでイメージした物や見ている物を、相手に遜色なく伝えられる便利さが重宝される。
だが、これを併用した動物実験の話は聞いた覚えがない。
「本日もよろしくお願いします。新種の発見記録は私が更新しますから」
「言ってくれるね、やっぱり名前が良いのかなあ。君は強運の持ち主だよ」
屈託の無い顔は、この人が年上だと忘れさせ、むしろ同期か年下の少年を思わせる。
「クラゲとも読めますからね。私の苗字は」
そう語りながら私はもう一つの表記も思い出す。
水母……私は、母には成れない。
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