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潜る程に光は遠く弱くなり、やがて視界は闇に閉ざされる。
一分に付き百メートルの、昔だったら自殺行為としか思えない速度での潜水。
機械に頼った速さだが個人的には、この潜水時と浮上時のスピードが好きだったりする。
自分が魚になったみたいで、薬の副作用の問題を無視出来る身体に感謝した。
(藤沢さん)
テレパスで話し掛け、指差す行為で私はそれを示した。
感激に息を飲む気配が強く伝わって来る。
(……新種だ)
(判断が早いですよ)
(でも、こんな色と形のスケーリーフットは初めてだ。細長いし、綺麗だ)
(サイズも倍は有りますね)
スケーリーフットは、四センチ程度の大きさの巻貝の一種だ。最大の特徴は硫化鉄で出来た鱗状の鎧を持つ点。鉄で身を守る生命が人以外にも存在したのだ。
殆どの棲息域はこのマダガスカル沖の熱水噴出孔近くに在ると言われている。
重々しいメタリックな色合いの種が最も良く知られているが、今回潜った矢先に見付けたそれは、サイズも倍程有れば色彩もまるで違った。
正に自分は王なのだと誇示する黄金の輝き。
真っ暗な海底で、この色合いは何の役に立っているのだろう。
本来なら生涯照らされる筈の無い強い明かりの中で、黄金色の巻貝はゆっくりとその歩みを進めて行く。
大発見だと高鳴る心臓を、早足に成る呼吸をなだめながら、私は持参したディープアクアリウムの中へと、筋力の補助にも付いているマニピュレーターを使って黄金の命を閉じ込めた。
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