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「先輩今も金髪なんですね。注意されないんですか?」
「最初はウザかったけど今はなんも。てか高校の時から金髪ってよく知ってんな」
「あの高校身だしなみには厳しいから髪染めてる人珍しくて。先輩の姿結構目立ってましたよ?」
「マジで?まぁ、よく生意気だっつって絡まれてたけど」
休憩時間。缶コーヒーを飲みながら休憩所でもあるロッカールームに置かれたパイプ椅子にだらりと身体を預ける。
相手が後輩と名乗り年下だと知ってからは不慣れな敬語はやめてタメ口調で話している。
辻は今日からこの仕事を始めたとは思えないほど手際が良くて、一応先輩である俺の立場がなくなるくらい良く働いてくれた。
ただ、力仕事には多少不慣れらしく、よろけそうになりながら重い段ボールを運ぶ彼を思わず手伝った場面があった。
相手の荷物を奪ってせっせと運ぶ俺に一瞬驚いたような顔をしていたが、ありがとうございます、と呟き直ぐに目を伏せていた。
その頬が少し赤く染まっている様に見えたのは気のせいだろうか。
「俺金髪憧れなんですよ。一回染めてみたけど自分じゃ似合わなくて」
何が嬉しいのか、隣に座る彼が弾んだ声音で無造作にゴムで束ねた毛先をつついてくる。
自分の髪が首筋に当たりこそばゆさを感じたが、特に止めはしなかった。
「懐かしいですね、高校時代」
「そうだな」
「先輩は何か部活やってました?」
「俺?俺は帰宅部。お前はなんかやってたの?」
「俺は剣道部に所属してましたよ」
何気ない会話。ふと辻は俺の顔を覗き込み、問い掛ける。何気無しに、淡々と。
「確か、先輩のクラスにも剣道部居ましたよね?」
何故、と疑問を口にする前に思い当たる人物が一人。途端にどくん、と心臓が跳ねる。
「先輩が二年の時の、亡くなった人」
小柄な身体で必死に竹刀を振るう姿──
押さえ込んでいた記憶が再生を始め、背中に嫌な汗が流れる。
「名前は確か……長瀬春輝」
聞きたくない、そう思ってしまう名前を吐き出した彼は俺の小さな変化に気付いているのか、口元に緩く笑みを浮かべている。
「……お前、長瀬知ってんの?」
なるべく動揺で声を揺らさないように問いかける。
「ええ、同じ部の先輩でしたからそれなりに。真面目に活動してた姿が印象的でした」
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