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長瀬に連れられ訪れた場所は学校から程近い歩道の木陰にあるベンチだった。
長瀬の言う通りそこは強い日差しがシャットアウトされ風の通りもよく、あの灼熱地獄の剣道場に比べたら天国のような場所だった。
途中コンビニで買った棒付きアイスを頬張る。
キンとした冷たさと甘さが口の中に広がり、火照った体を程よく冷やしてくれた。
「崎野君って剣道興味あるの?よかったら剣道部に」
「入らない」
「少しくらい考えてくれても──」
「考えない」
「そんな即答しなくてもいいのに……」
俺の答えに長瀬はしゅんと項垂れた。
(別に剣道見たくて練習場行ってんじゃねーし)
ガリガリ、とソーダ味のアイスを噛み砕く。
「崎野君剣道やったら絶対格好いいのになぁ」
何やらぶつぶつと呟きながら長瀬も若干溶けかけのアイスを頬張る。
すると、溶けたアイスの滴が彼の口元を伝い、つぅと首筋へ流れ落ちていった。
学校から離れたからだろうか。
さっきまで剣道着をきっちり着こなしていた彼からは一変、ゆるりと制服である白いシャツのボタンを2つまで開けていた。
覗く首元と鎖骨。
強い日差しの中でも白さを失わない肌は光を反射して輝いているように見えた。
──そのボタンを全て開けたら。
(俺、今何を考えた……?)
当然、長瀬の性別を忘れたわけではない。
前に女みたいだとからかったら、僕は女じゃない!と猛反論してきた事がある。
彼にとって女扱いされることは我慢ならない事らしい。
勿論、それは分かっている。頭では理解している。
(それでも──)
いつもより強い汗の匂いと制汗剤の香り。
細くしなやかな腰周りは両手で掴めてしまいそうなほど。
直ぐ隣りに座る彼の危うさを途端に意識しはじめるとくらくらと視界が回った。
(まずい……)
触れたい。
満たしたい──。
「どうしたの?」
彼の言葉に、はっと現実に引き戻された。
何も知らず、じっと俺を見つめてくる大きな黒い瞳。
「……先帰るわ」
俺は長瀬から離れるようにその場から立ち上がった。
「え、うん」
僅かに戸惑う彼に背を向けたまま歩き出す。
この一連のおかしな思考は全て暑さのせいと決めつけて。
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