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「だから、ここにХを代入して、この公式を当てはめれば計算出来て……」
「なるほど、分からん」
「何回も説明してるんだから覚えてよー!」
俺は基本、勉強は嫌いだ。
特に数学は数字ばかりで面白くない。
だが、目の前のコイツはなかなか面白かった。
覚える気なんて更々ない俺になんとか理解してもらおうと、教えている本人の方がうーうー唸りながら教科書とにらめっこをしている。
(飽きないな)
長瀬が俺のテストの点数を盗み見た事がきっかけで始まった俺の家での勉強会。
俺自身は赤点さえ回避できればそれでいいと思っていたが、何故か長瀬の方が勉強教えてあげる!と意気込んでしまった。
「僕の教え方が下手なんだよね、ごめん……」
「んなことねーよ。お前はすごい」
いつも守られている側の彼が、なんとか俺の役に立とうと考えた結果がこれ。
そう考えると、ノートに並んだ彼の描いた数字さえも愛おしく思えた。
「休憩すっか。飲み物とってくる」
「そうだね。喉乾いちゃった」
立ち上がり冷蔵庫のあるキッチンへと向かう。
といっても一人暮らし向けの狭いワンルームなので数歩歩いただけで目的の冷蔵庫にたどり着く。
取り出したオレンジジュースを二つのグラスに注ぎ、元居たローテーブルに運ぶ。
「ありがと」
長瀬は俺からグラスを受け取ると早速喉を鳴らして中身を飲み干した。
その様子に思わず頬を緩める。
長瀬が俺の家に遊びに来たのはもう何度目だろうか。
長瀬の家は一人暮らしの俺と違って両親と祖母と姉とが居て、常に賑やかだそうだ。
賑やか過ぎて勉強に集中出来ないから、と放課後や休みの日は俺の部屋で勉強会を行うのが習慣になった。
「崎野君の部屋、居心地良すぎて帰りたくなくなるなぁ」
(なら帰るなよ)
飾り気のない、俺だけの部屋。その見慣れた空間に長瀬が居る。
──このままずっと、俺の傍に居てくれたら。
俺の長瀬への好意は疑いようのないものに変わっていた。
「疲れたなぁ」
だらりと脱力しテーブルに突っ伏す長瀬。
こんな無防備に、心を許してくれている彼なら、想いを告げても俺を受け入れてくれるのではないか。
心のどこかでそんな淡い期待を抱いていた。
しかし、次の彼の言葉に俺の心境は一変する。
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