過ち

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「僕、好きな人が出来たんだ」 唐突な言葉。思考が止まる。 「1組の水城さんって人なんだけど、学級委員長やっててね」 テーブルから僅かに顔を上げ、嬉しげに、少し照れたような声音で紡ぐ長瀬。 彼が語る奴がどんな人間かなんて記憶に無い。それほどまでに俺の関心は長瀬ただ一人に向いていた。 長瀬もそうだと思っていたのに。 「彼女、笑顔が素敵なんだ」 他の誰かに想いを寄せていただなんて──。 「……はっ、お前なんかが女子と付き合うとか無理だろ?」 鼻で笑い飛ばし冷めた口調で吐き捨てた言葉。それに長瀬は大きく目を見開く。 「なっ……そんな言い方……」 応援でもして欲しかったのだろうか。 ショックを受けた、そんな表情で自信を失い今にも泣き出して仕舞いそうな長瀬。 (泣くなよ) 傷付けたいわけじゃない。そんな顔するな──。 上手い言葉なんて俺は知らない。 だから、行動で示したかった。俺の長瀬への想いを。 「……んっ」 俺は躊躇いなく震える長瀬の唇に自分のそれを押し当てた。 彼の唇は柔らかく、温かい。 ただ軽く触れ合わせているだけなのに酷く心地良かった。 しかし──。 「──嫌だっ!」 突然の事に、それまで固まっていた長瀬が自我を取り戻して、思いきり俺を後方へ突き飛ばした。 その拍子にがたん、とテーブルが振動してコップが倒れ、俺の分のオレンジジュースがテーブルへ広がった。 「何するの……?気持ち悪い」 驚きと不快感に表情を歪ませ、口元をごしごしと服の袖で拭う長瀬。 明らかな拒絶。 砕かれ、霧散した淡い期待。 彼は決して俺を受け入れてはくれない──。 そう悟った瞬間、プツン、と俺の中の糸が切れ、かっと頭に血が昇った。 悲しみよりも怒りが勝り、俺の身体を支配していた。 (もう、なんでもいい) 俺は長瀬の両肩を掴み、力任せに床へ押し倒した。 相手の両手を片手で捕らえ、痛むほど頭上へ捻り上げると、彼は身を捩って抵抗を始めた。 「痛ッ!……崎野君やめ、て……!」 ぞくり、と言い知れぬ快感に背筋が震える。 完全に歯止めが効かなくなっていた。
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