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リリリ──。
目覚まし時計の音で目を覚ます。いつもと変わらない朝。
目玉焼きをトーストに乗せただけの簡単な朝食を済ませ、髭を剃り身支度を整えて自宅を出る。
通い慣れた路地を進み、道路沿いの職場へと向かった。
昨日までと何ら変化のない、日常。
何回も繰り返してきた日々。
ただ一つ変化があるとすれば──。
「おはようございます」
職場にコイツが居る事だ。
ロッカールームで顔を合わせるなり腹ただしいほど爽やかに挨拶してきた。
「先輩、目の下すごいクマ出来てますよ?昨日は眠れなかったんですか?」
白々しく俺の顔を覗き込みながら首を捻っているのはモテ顔の青年、辻光希。
(誰のせいで眠れなかったと思ってんだよ……)
高校時代。好きだった奴。暴走の末の過ち。
コイツの発した言葉がきっかけで、忘れかけていた過去のいろんな記憶が呼び覚まされた。
おかげで夜は無駄に頭を働かせているうちに一睡もできなくて、俺の目の下には黒ぐろとしたクマが刻まれている。
ふとよみがえる、あの言葉。
──俺はね、ずっと見てたんですよ。先輩達の事を、陰からずっと──
あの言葉の真意は分からない。
俺と長瀬の関係を知っている第三者が今頃になって現れるなんて夢にも思っていなかった。
「今日は日曜日だからお客さん多いかもしれませんね」
俺の懸念とは対照的に、辻の表情は心なしか晴れやかに見える。
本当は今すぐにでもコイツを問い質したい。
でも──
「いたいた、崎野君!開店準備手伝って!」
ロッカールームのドアが開き、慌てた様子で店長が呼びかけてくる。
俺には仕事が待っていた。
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