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「崎野君、これ向こうに運んで!」
「ういっす」
ベテラン店長の無駄に張り切った声に気の無い返事を返し、本が詰まった重たい段ボール箱を店先に運ぶ。
本が好きだから、そんな安易な理由で選んでしまった書店員という仕事。
予想以上にハードな仕事内容に就職して一年も経たないうちから辞めたい気持ちで一杯だった。
崎野颯也、23歳、現在恋人なし。
身長は割と高い方で本棚の一番上までギリギリ手が届く。
そんな姿を見られてるからか常連のおばちゃん達にはよくちやほやされている。
休日は家でゴロゴロ、典型的なインドア派無気力人間である。
「ああ、バイトね。詳しい事は彼から聞いてくれ」
(店長仕事してねーじゃん)
薄いビニールで包装された漫画の新刊を棚に並べる作業の最中、耳に届く話し声に心中でイライラを募らせていると、店長が自分を呼ぶ声が聞こえ、渋々そこへ向かう。
そこには俺より少し背の低い茶髪の青年が居た。
この書店の制服であるエプロンを纏っている事から、これから仕事仲間になるであろう人物なのは察しがついた。
年は俺と同じ、いや若干下だろうか。
目鼻立ちがはっきりしているその顔は中性的で俗に言うイケメンだ。
間違いなく女子受けがいいことだろう。
(この顔、どこかで見たことあるような──?)
「辻光希です。よろしくお願いします」
茶色の大きめの瞳が俺を捉えるなりにこりと微笑む。
「今日からこの子バイトで入るから。崎野君仕事内容教えてやってね」
(全部俺に丸投げかよ)
「……ういっす。崎野颯也です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。崎野"先輩"」
(ん?会った側から先輩……?まぁ、間違いではねーけど)
何故、いきなり自分を先輩と称したのか不思議に思い、相手の顔をまじまじと見ていると、その答えとなる言葉が飛んできた。
「俺、東第二高出身なんですよ。先輩の一つ下です」
「東二高の……?」
(だから見覚えがあったのか。はっきりとは覚えてねーけど)
突然俺の職場に現れたバイトの青年は4年前まで通っていた高校の後輩だった。
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