14人が本棚に入れています
本棚に追加
辻は記憶を探るように視線を宙に彷徨わせた。
「確か、先輩と仲良かったですよね。ベッタリって感じで」
ベッタリ──確かにその表現は当てはまっていたかもしれないが。
「長瀬先輩よく先輩の話してましたよ。こんな僕でもすごく優しくしてくれるんだよ、って」
──違う。
「イジメられてる時助けてもらったんだ、って」
──やめろ。
「崎野先輩は強くてとっても格好いいんだって──」
「やめろよッ!死んだ奴の話をするのは!」
相手の言葉を遮るように思わず声を荒げる。
はっとして辻の顔を見ると、笑っていた。
哀れむように、愉しげに口元を歪めて。
「お前、どこまで知ってんだよ……?」
問い掛けの言葉が震える。
「……全てを、とは言い切れませんけどね」
ゆっくりと辻の手が伸びてきて、俺の頬に触れてくる。
喉から声を絞り出す事すら出来ない、視線すら動かせなかった。
「俺はね、ずっと見てたんですよ。先輩達の事を、陰からずっと……」
辻の言葉が呪いのように俺の自由を奪っていく。
じわりじわりと、確実に。
ゆっくりと整った顔が俺に迫ってきて──
不意にピタ、と辻の動きが止まった。
「おっと、そろそろ休憩時間終わりますね」
今までの表情から一変、にこりと曇りのない笑顔を浮かべると先に行ってますね、と辻は俺から離れロッカールームを出ていった。
(なんで、なんで今更になって──)
部屋に残され拘束が解けた後も、一人頭を抱え肩を震わせる。
(……長瀬、俺は──)
臆病な今の俺に出来ることは、今更届くはずのない言い訳の言葉を無意味に並べ立てる事だけだった。
最初のコメントを投稿しよう!