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それから長瀬はちょこちょこ俺の後をついて来るようになった。
俺の顔色を伺いながら懐いていない猫の様にそろり、そろりと近寄ってくる。
昼休みには勝手に人の机に椅子を並べて弁当を広げている事もあった。
(うっとうしいなコイツ)
ほんの気紛れに助けただけの筈が、まさかこんなに懐かれるとは思っていなかった。
いい加減文句の一つでも言って追い返そうかと不快感を露に睨み付けるが、怯むどころか呑気に微笑まれてしまった。
人の気などお構いなしに、にこにこと。
「……はぁ」
頭を抱え盛大な溜息を吐き出す。
文句を付ける気も削がれてしまった。
「……お前さ、なんでいっつも俺んとこ来んの?」
髪は金髪、耳にはピアス穴。
素行の悪さも相まって、いかにも不良という外見の俺に近寄ってくる物好きは他に存在しない。
今迄無視を決め込んでいた俺にようやく話し掛けられ、長瀬の笑顔がより一層きらきらと輝く。
「だって、崎野君は強いから」
あまりにストレートな言葉。
「崎野君は僕をイジメないし、僕を守ってくれるから」
詳しくは知らないが、あの日以来長瀬に対する嫌がらせやイジメは無くなったらしい。
あの一件で俺と長瀬は友人とでも思われたのだろう。
不良で有名な生徒の友人をイジメるという度胸のある奴はどうやら存在しなかったらしい。
勿論、こちらは友人として彼を守っているつもりなんて微塵もないが。
だが、結果として俺は長瀬の用心棒のような存在になっていた。
俺は長瀬に利用されている。本人にその自覚があるのかあやしいところだが。
(──めんどくせぇ)
しかし、俺もまた、長瀬を利用していた。
今までこんなに誰かに必要とされた経験などなかったから。
しばしば問題を起こす俺は教師からも家族からも煙たがられていた。
周りの色に染まるのが何より苦痛な俺にとって、他人にどうこう思われようが知ったことじゃない。
でも、コイツは違う。
理由はあるにしろ、俺を間違いなく慕っている。
自分を必要としている。
今まで味わった事のない幸福感に戸惑いを抱きつつも、素直に嬉しいと感じてしまった。
「……弁当のからあげ、一つよこせよ」
「ふふっ、どうぞ。あ、玉子焼きもあげようか?」
俺は次第に長瀬と共に過ごす日常を受け入れていった。
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