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ぐつぐつと煮立つ鍋の中をへらでかき回す。 「…里帰り? ご両親どちらかの実家?」 「はい、母方の。お祖母ちゃんの家です。 去年は都合がつかずに行けなかったんですけど」 完全に溶けたのを確かめて、砂糖を少しずつ。 「なら、ここに来てていいの? 荷造りとか、準備があるんじゃ」 「あ、それなら大丈夫です。 母さんが電話でそう話してたのが、昨日ですから」 続いて、あんこを二回に分けて落としていく。 「いつ行くの?」 「お盆の頃に」 あれ? なかなか溶けないな……。 「そっか。──ところで」 「はい?」 「さっきから、何作ってるの?」 使い勝手の良い台所の入口で、片手にうちわを持った横宮さんがこちらを覗きこむ。
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