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「それはですね……話すと長くなるんです」 洗剤で泡だらけな両手を動かしながら、 私はしみじみと言葉を紡いだ。 四日前の話だ。 和菓子を食べたくなった私は、 ちょっとした思いつきで水羊羹を作ってみた。 家に材料が揃っていて、ちょうどよかったのだ。 けれど、思いつきというものは、 大抵良い方向には傾かない。 結果。 できたのは、 半透明の寒天に中途半端な粒あんが閉じこめられた、わけのわからない物体。 ……食べた人全員から罵声を浴びせられたのは言うまでもない。 その後、今度こそともう一度材料を揃えたら、ひきつった顔の両親から台所使用禁止令を宣告された。 何もそこまでと反発してみたものの、 親の特権には勝てなかった。 それで仕方なく自宅で作るのを諦めて、 お隣さんに頼んでみたのだ。 “突然なんですけど、 台所使わせてもらえませんか? ” 「──とまあ、こういうわけなんです」 最後に鍋をかたん、と置いて、 後片付けと事情の説明を同時に終える。
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