15人が本棚に入れています
本棚に追加
それなのになぜ訊いたかといえば、それは、
ひとつの口実にしたかったから。
私がお隣の庭に忍びこんだことで引き起こされた、
あの初夏の騒動の後。
扉の向こうに垣間見た世界へ興味を示した私に、
横宮さんは機会があればねと言ってくれた。
けれど機会がないのかその気がないのか、
あれからその話は全く出てこない。
こちらから言いだすのもどうかと思っていたのだけれど、もうニヵ月以上たつ。
ちょっとだけ、話だけでもと思ったのだ。
それでこんなことを言ってみたのだけれど、いざ尋ね返されるとなかなか踏みこめない。
「あの、実は……
狐さんどうしてるかなって思いまして」
口ごもった挙げ句飛びだしたのは、
あの夜にたった一度きり会って、とてもお世話になった方の名……あれ、名前なのかな。
「狐さんって…狐さん?」
「は、はい、狐さんです。
よく考えたら私、お礼とかいろいろ言えてないですし、そのためにもまた会いたいなーなんて」
ああ、もうこれで通しちゃえ。
心中やけくそになりかけた私の向かいで、
横宮さんがふと考える顔を見せた。
「──君がお祖母さんの家に行くのは、
お盆の頃だっけ?」
「へ? あっ、はい」
唐突なことを訊いてくる。
「どこにあるか聞いていい?」
「あ…えっと、田舎の方ですよ。
都会っぽい所もありますけど、
基本は、山に囲まれていて──」
少し戸惑いながら、
それでも訊かれるままに場所を答えてみる。
何かあるのかなと正面の人をうかがうと、
意味ありげな表情がちらりと映った。
最初のコメントを投稿しよう!