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━独りぼっちになった悪魔(イビル)の瞳(アイ)の少女・鳳仙花と孤独を愛する名もない死喰腐鬼(グール)の盲目少女が出会ったのは、金木犀香る秋だった。━
「……あなた、こんなところにいると…あたしに喰われるわよ。」
何の感情もなく、淡々と。
「……死にたいけど、生きなきゃいけないの。」
フードを目深にかぶり、震えながら答える。
「……死にたがりに興味はないわ。それにあなた、悪魔と人間の香りがするわね。まぁ、どうでもいいわ。…………いい薫り。」
見えていない瞳を仰ぐ。太くもない木に座ったまま寄り掛かっていた。
「……え?本当だ。金木犀だね。小さなオレンジの花が綺麗……。」
彼女も見上げる。すると、フードがズレて可愛らしい顔が露になった。
「……フードなんてかぶって、若いのに勿体ないわね。」
少女は慌ててフードを目深にかぶり直す。
「……金木犀って言うの。小さなオレンジの花が咲いているのね。」
気にした風もなく、淡々と。
「……あなた、見えないの?」
びっくりしてその少女を見つめてしまう。
「……生まれたときから見えないから、捨てられたわ。」
不敵に笑う少女は綺麗で、見えていないのに真っ直ぐ見つめ返した。
「……あなたは大丈夫みたい。私、視線を合わせただけで魂を食べてしまうの……。」
硝子玉のような綺麗な瞳を見つめ続ける。
「……わ、私、鳳仙花。あなたは?」
「……鳳仙花。綺麗な名前ね。……あたしには名前なんてないわ。名無しの死喰腐鬼
グール
よ。」
鳳仙花は戸惑いを隠せなかった。"捨てられた"と聞いても、同情するのは失礼だと思ったけれど。彼女の瞳からは、そんなものを求めてはいないと感じた。
「……じゃぁ、"金木犀"!初めてみたとき、金木犀の精かと思っちゃっただけなんだけど。」
恥ずかしそうにする鳳仙花に、少女は初めて暖かい笑みを溢した。
「……"金木犀"。素敵な名前ね。ありがとう、鳳仙花。」
その笑顔が嬉しくて、届く高さの金木犀の花を取って、無造作に纏められた"金木犀"の髪止めに差し込んでいく。
「……似合うよ、金木犀。」
金木犀の手のひらにも一つ、花を乗せた。
「………ありがとう。こんなにも……儚く、小さな花なのね。」
◇◆◇◆◇◆◇
━これは人や生き物を殺し、貪るしか生きられない二人の少女の物語。━
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