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あのとき、キズだらけだったこの人は、今はこうして笑えている。
まだまだキズはたくさんあるし、治療中ではあるけれど。
それでも、前を向いて頑張ろうとしている。
その姿はすごく、すごく眩しい。
でも、さっきまで他人事だと思っていた感情は今はもうない。
まだ立ち上がるには厳しいけれど、それでも僕もこんな風になるんだ。
真っ直ぐ前を見つめ、キズを少しずつでも治していくんだ。
僕を支えてくれる人はたくさんいる。
僕が死なない限り、僕の身体の中も生きようと頑張れる日が来る。
頑張って、頑張って、いつかキズが完治して、また前のように生きられる日が来る。
増え続けているキズも、増え続けるのが止まる日が来る。
どれだけ時間がかかるかわからない。
それでも、少しでも早く治すためには、僕自身が座り込んでいるままじゃいけない。
僕は袖口で、目から溢れ出す涙を拭った。
「あっ、また一つキズが治った」
そのとき、目の前にいる人の手に付けられた包帯がハラリと落ちた。
そこにはキズはなく、綺麗な手がある。
「“頑張って”、それしか言えなくてごめん」
「ううん、頑張るよ、ありがとう」
キズだらけの手を出した僕。
治ったばかりの綺麗な手がそれを包み込む。
僕達はどちらともなく笑顔を浮かべた。
大丈夫。
僕は一人じゃない。
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