5人が本棚に入れています
本棚に追加
「…うちは?
なんでテントなんだよ?」
長いことどう言おうか迷って、ようやくそれだけ言えたんだけど、彼は即否定してきた。
「だから。
迷惑かけてねえだろ。
関わんなよ」
「そういう訳にもいくかよ。
どんな事情か知らねえけど、家がねえんなら。
役所に行ってだな…「あぁあぁ、いらねえ。
俺が好きこのんでテント生活してんだ、放っといてくれ」
「ここらへん、たいした景色でもねえぞ?
キャンプなら、もっといい場所…「あぁもう、うっせぇなあ…ここ私有地でもねえだろ?
野宿するのに、いちいち許可がいる訳でもねえだろ?
つーか、俺これから食事だし…あっち行けよ、食いにくいだろうが」
…なんか、ものすごい邪険に言われてるんですけど。
というか、食いにくいとか言いながら、自分がいるのにカップラーメンすすりだすし。
見れば、地べたにカセット式のガスコンロが置かれ、その上には小さいやかんがのっていた。
「…いらねえかも、だけど。
これ、やるよ」
ビニール袋から、さっき買ったお茶とチョコレートを出した。
彼は、ちょっと驚いた顔で自分を見た。
「…小さい子が、寒さに震えてたら大変って思ってさ。
とりあえず見に来たんだけど…お前タフそうだし。
じゃ、オレ行くわ…風邪とかひくなよ。
じゃあな」
それだけ言って、後ろを向いて帰路につく…関わるなよって、いやいや関わる気ぃなんてないっての。
…そういや名前も聞かなかったな、なんて思ったが、彼は関わりたくない訳だから、聞いたところで素直に言う訳でもないだろう。
そうやってその日は帰って…で、次の日もその次の日も、またその次の日も、相変わらずテントは張られていた。
学校への往復の際、方向は逆なんだけど、足をのばして河川敷まで覗きに来ていた。
彼は、橋の下なんかで何をしているのか。
気にはなっていたけど、何もしなかった。
だけど4日め。
その日は一日中雨だった。
さすがにちょっと気になって、夕方の診察時間だというのに家の手伝いは置いといて、彼を見に行くことにした。←雨で患者さんが少なかったせいでもある
最初のコメントを投稿しよう!