本編

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『まもなく扉が閉まります。ご注意ください』 プシューッ 車両に左足を踏み入れた直後、バタン!とドアが閉まった。 (ふ~。なんとか、間に合った) ラルフローレンのハンカチで首の汗を拭う。乱れてしまったスーツの裾とネクタイを、サッと整える。 それらの行為を行うために右手を動かす度、ロレックスの腕時計が、カッターシャツの袖から垣間見える。 満員電車の中、左右前後の自分と同じようなスーツ姿のサラリーマンの視線が、何とな~く、自分に集まっているのを感じる。 それが密かに快感だった。 どこのだれかも分からない他人と比べる必要もないのだが、この国の男性の平均年収を遥かに上回る自分は、ふとした日常生活の中で、優越感に浸る瞬間が度々ある。 ふふっ、しょうもない性格になったな。 そんなことを思っていた時だった。 熱い視線を感じた。 近くの三人の女子高生が、ヒソヒソ話をしながら、私を見ている――?
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