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梅雨時には珍しく、晴れが続いたある日の放課後、僕の木の下できみは、誰にも見えない僕を見付けた。
「ねえ、何読んでるの?」
鈴の鳴るようなその声に、僕のすべてが跳ね上がった
。
例えなんかじゃない。読みかけの本がバサッと、一歩前へ飛んだほどだ。
「どうしてわかったの」
僕は思わず尋ねた。
まさか僕を見付ける人がいるなんて!
「えへへっ、あと付いてきちゃった」
耳を疑った。
きみには見えていたんだ。学校から、ずっと。
僕の隣に腰を下ろしたきみは、長い時間、黙って空を見ていた。
僕も、落ち着いて本でも……という気にもなれず、黙って空を見た。
ひとりぼっちの僕が見ていた灰色がかった空は、きみの登場に驚いたように真っ青になり、鮮やかなオレンジ色へと変わっていった。
「じゃあ、また明日ね」
立ち上がったきみのポケットから、ハンカチが落ちた。
でもきみは気付かず走り出し、何度か振り返って手を振った。
本当は僕の姿は見えていなくて、きみが僕のうしろの何かに手を振っているんじゃないかと、僕はそのたび振り返った。
そこにあるのは、夕暮れの少し冷たい風に揺れている、伸び放題の雑草だけだった。
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