猫に勝る未木なし

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雨の日は『あの日』を思い出す。 黒猫に会ったのは本当に偶然で。最初はただのクライアントの孫娘。 大きな家の草陰に潜んでいた彼女を初めて見た時、彼女を猫のような不思議な存在に捉えていた感覚は、今でも褪せる事無く鮮明に覚えている。 子供はそんなに好きではないが嫌われるメリットはないだろう。一般的に考えればその程度の気持ちで当然だったはずなのに、初めて目が合った時から思えば全てが一般的とも既成概念とも違っていた。 しなやかで発展途上の体躯に似つかわしくない、成熟した夜を髣髴とさせる闇色の瞳。そんな綺麗な瞳に出会ったのは初めてだった。思えばそこから俺(犬)は彼女(猫)に強く惹かれていたのかもしれない。 初めて見た迷いのない瞳。まるで母親を一心に見つめる赤ん坊の瞳のようにも、長年生きた動物の瞳にも見えたそれは、ただ一点を見つめ、衰えることなく輝く北極星(ポラリス)のようだった。それが彼女を意識したきっかけだったかもしれない。 今まで女性の視線を集めることが多く、ある意味それに慣れていた俺に対し、その瞳は真っ直ぐに盤上に注がれていて、決して俺を見ようとしない。ただ傍にあるものの一部として素通りするだけで、無限に広がる宇宙のような瞳に俺は映らない。 異性としてどころか、人として興味をもたれなかったのは彼女が初めてだった。 ああ・・・その瞳に映ってみたい。 子供としてではなく、異性としてでもなく、1人の特別な存在だと興味をもったのも、彼女が初めてだった。
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