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猫に勝る未木なし
【Dog side】
『先生、初音(はつね)先生?聞いてます?』
『大丈夫、聞いてるよ。それで何?』
相手の伺うようなイントネーションに苦笑を作りながら続きを促せば、新規の案件で先方から『黒柴 初音(くろしば はつね)』に弁護を依頼したいと、俺を直々に指名してきたらしい。
『お休みのところすみません。先方は先生も別の案件を抱えているのは承知のようですが、早急に確認して回答すると先方に伝えてありますので、検討いただけたらと思います』
その言葉に、俺のスケジュールを把握している電話先の秘書が、俺が無理だと判断すれば断ってもいいが、断るにはいささか角が立ちそうな相手である事を匂わせてくる。
我ながら察しがいい方で秘書は助かっているだろうなと自画自賛しながらも、案件があまり面白くなさそうなものだしどうしようかなと考える。
断っても角は立つが、その程度なら問題ない。権力に媚びを売る気もさらさらないが、手放すには少々目に余る。
『先方に断って。だけどどうしてもって言うなら、俺1人じゃなくて『俺の事務所』でなら対応すると付け加えて』
そこでリビングから逃げるようにやってきた書斎のブラインドから微かに見える外の様子に、目を凝らす。
(外……雨か)
突然降ってきた通り雨に、少し前ならば予定がずれ込む事を心配していたのに、今では昔からは考えられない位優しい気持ちになる。
『わかりました』
切れたスマホを耳にから離し、そっと外の音に耳を傾ける。
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