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仕事中の短い休憩時間、2階から3階へ続く病院の外側に設置された非常階段の踊り場、そこがいつもの美月の休憩スペース。
院内の休憩場所もあるけど、看護師や医師がいて、仕事を命令される側の美月としては、リラックスなんてもっての他だし。
付き合いのない美月1人で入るには居心地が悪くて。
人気のないこの踊り場が一番落ち着く。
思いっきり伸びをして、外の空気を目一杯吸って。
「うーん。生き返る~。」
ぷっ、あはははは。
誰かいる。
もしかして聞かれてた?
階段を上がってくる笑い声。
「槇原さん、やっぱりここに来ましたね。」
宗麻だ。
「やっぱり?」
ニヤッと宗麻が笑う。
少しずつ美月との距離を詰めながら。
「知ってますよ。仕事中、あなたはいつもこの外階段の踊り場で休憩をとってたこと。」
ええっ。
いつの間に、見られてたんだろう。
ていうか、宗麻って確か動けるようになってから、すぐに退院したんじゃなかったっけ?
なんて思案してると、目の前が陰る。
見上げればすぐ頭上に宗麻の顔。
「え、と。あの…。」
距離が近すぎて、美月の思考がストップする。
宗麻から逃れるように僅かに身体を右にずらすと、すかさず宗麻の左手が欄干にもたれる美月の右側に置かれる。
反射的に左に逃れようとして、今度は左側に宗麻の右手。
結局美月の背中に欄干、向かい合う宗麻は欄干に両手をつき、美月を両腕に包むような格好になってしまって。
もうその状況だけでいっぱいいっぱい。
それはいつかのデ・ジャブのようでもあり。
宗麻に抱かれているようで。
いない。
正しく息も触れる距離。
この中途半端な距離がさらに美月の羞恥を煽る。
爆発しそうな心臓の音が聞こえてしまいそう。
「不思議ですか?」
「へっ?」
一体なんの話だったか。
「いえ。その…はい…。」
何故美月がここで休憩していることを宗麻が知っているか、だったっけ!?
「他にも知っています。時間のある時に、重症の患者や、手術前後の患者のところに足を運んだり。認知症の患者の話相手になったり。医師は勿論、看護師でもそんな親身にはしてくれないですよね。」
「…。」
なんでそんなことを知ってるの?
すごく気恥ずかしいンダケド。
美月の無言の疑問を引き取り宗麻が、にやっと笑って答える。
「愛の力です。」
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