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それからはなるべく時間を作り父に会いに行った。
失くした何年もの時間を埋めることはできないけど、会うことが大切な気がした。
死の近くにいる父は、死を恐れて何もかもに目を瞑って逃げた私とは違った。
強くて、賢くて逞しい。
本当は痛くて苦しい筈なのに、一生懸命話す父。
私は痛みや苦しみから逃げ続けたのに…、全てを、死さえも受け入れて私に語りかける父。
初めて会った時の…あの不思議な感覚。
この人と…もっと早く出会っていたら、私の人生は確実に変わっていただろう。
私を今まで見つけられなかった事を悔やむ父に…これ以上悔やませてはいけないとわかっていても、父は全てを話してくれと懇願する。
今までどんなに酷い目に遭ったのか、どんな痛みと苦しみを生き抜いてきたのか…話しながら二人で泣いた。
父に話すことで、あの薄暗い部屋のカーテンが少しずつ開いていく気がした。
そして心の傷も少しずつ癒えていく気がした。
「リカ…」
父が私の頬に触れる。
「もう苦しまないで。私が…リカの苦しみと痛みを全て持って行くから…」
必死に首を振る。
「どこにも…っ、行かないで…」
「ああ…ずっとここにいたい。リカをずっと見守っていたい…」
泣きながら痩せた父の胸に顔を寄せる。
「いなくならないで…」
「リカはもう一人じゃないだろう?川辺夫婦も、心強い友達もいるじゃないか。」
「お…父さ…んっ…」
「リカは…強い子だ。これからどんな悲しみが訪れても、きっと乗り越えられるよ。」
父が私の涙を拭う。
「泣かないで、リカ。」
鼻をすすると父は笑った。
それが…私が見た最後の笑顔だった。
父の病状は一気に悪くなった。
私の心の膿を全て吸いとったせいで病気が悪化したように思えた。
やはり話すべきではなかった…。
父は私の苦しみと…自分の後悔の念を抱えて旅立とうとしている。
「どうして…もっと早く…っ、会いたかったよ…」
そして数日後…父は眠るように息を引きとった。
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